倶利伽羅峠の戦い! 後編【平維盛まんが 13】 平知度の最期 『源平盛衰記』


寿永二年五月十一日、倶利伽羅峠の戦いが始まる!

<『源平盛衰記』巻二十九より> 
倶利伽羅峠の戦いの平維盛、平通盛。平知度。平家物語。源平盛衰記。
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倶利伽羅峠の戦いの平維盛、平通盛と平知度。平家物語。源平盛衰記。
倶利伽羅峠の戦いの平維盛、平通盛と平知度。平家物語。源平盛衰記。

※漫画はえこぶんこが脚色しています。  

◆解説目次◆ ・登場人物
・源平盛衰記
・木曾義仲登場
・倶利伽羅峠の戦い
・平知度の最期
・加賀に留まる追討使
 

登場人物

平維盛 たいらのこれもり
平清盛の長男[重盛]の長男。

平通盛 たいらのみちもり
平清盛の弟[教盛]の長男。

平知度 たいらのとものり
平清盛の六男。

『源平盛衰記』

これまでこの漫画では、合戦は『玉葉』『吉記』『山槐記』等の日記をベースに描いてきたのですが
(だって、覚一本『平家物語』の維盛は戦わないから…。
 (ーー;)

今回は、『源平盛衰記』を元にしています。

逆に、『玉葉』などの日記系では、倶利伽羅峠の合戦についての記述は非常にシンプルで、都から遠い北陸での出来事だったこともあり、殆ど詳細は書かれていないのです。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

一方、軍記物の本領発揮、『平家物語』(『源平盛衰記』もその一種)では、合戦の様子が詳細に臨場感たっぷりに描かれます。

ただ、殊に倶利伽羅峠の戦いに関しては、諸本の間でも異同が多く、どの本に準拠したかによって布陣も経過も相当変わってきます。
そこは、あ、『盛衰記』準拠なんだなってことで。
(通盛は追手じゃないの? 経正どこいったの?とかそういう系。)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『源平盛衰記』は、『平家物語』の異本の一種です。
「延慶本」等と同じ”読み本系”に分類されますが、「延慶本」よりもさらに多くの増補や改編が加えられており、平家物語諸本の中でも最も文量が多い本となっています。
書名が示すとおり源氏側の記事も多く含み、江戸時代には歴史書として扱われ広く普及しました。

倶利伽羅峠の戦いについても、より詳細にドラマチックに描かれていて、後世よく知られているエピソードは「覚一本」ではなく『盛衰記』を基にしていることも多いのです。

ご存じのように『盛衰記』の記述には大胆な脚色も多いのですが(漫画には描いてないけど火牛の計とかね)、今回はそういうものだと思って読んでいただければ。


木曽義仲登場

越前の火打城を打ち破った追討使は、5月2日に加賀国に入り、林氏・富樫氏の城を攻め落としました。
追討使の進軍を受けて、越後にいた木曽義仲が越中に進軍。

こうして、加賀と越中の国境である砺波山で、維盛率いる追討使と木曽義仲が対峙することになるのです。

前回の記事にもありましたが、当初の追討対象は、反乱を繰り返す在地の国人だったので、敵として木曽義仲が登場するのは、いよいよここからなのですね。


倶利伽羅峠の戦い

寿永2年(1183)5月11日、倶利伽羅峠の戦いが始まりました。

布陣や合戦の経過は諸本の間でもかなり異同が多いのですが、『源平盛衰記』のストーリーではこうなっています。

5月11日、日中は源平両軍、鏑矢を射かわしただけで日が暮れた。

真夜中になって、追手の義仲軍、さらに平家本陣の背後に回った搦手の軍が一斉に鬨の声を挙げ、太鼓を打ち鳴らし、法螺貝を鳴り響かせた。

突然の奇襲に、休んでいた平家軍は慌てふためいた。

西は搦手の軍勢、東は追手の軍勢、北は巌石が高くて登れず、南は崖である。

平家軍は「突破して加賀へ退却せよ」と叫んだけれども、
義仲軍が追手からも搦手からも押し寄せるので、押し出され南の谷へくだる。
南へ進んでいく者が次々消えるので、この先に道があるのだろうと続くが、そこは深い谷だった。兵は次々に落ちていき、谷底には骸が上に上にと重なった。
『源平盛衰記』巻二十九「砺波山合戦の事」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

平家軍を奇襲によって混乱させ、一気に谷に追い込む義仲の鮮やかな戦法が有名な場面です。

実際の戦闘がこのようであったかどうかはわかりませんが、山間では大軍の利を活かすことができず、奇襲により態勢を崩された平家軍が加賀までの撤退を余儀なくされたことは事実だと考えられます。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

細かーい話ですが、覚一本『平家物語』では、すっかり油断していた平家軍。
『源平盛衰記』では「夜討モコソアレ、打解寝ベカラズ」と言って、一応夜襲を警戒して「寝るな」って言ってるんですね。

漫画の中で夜襲を気にしているのは、維盛を少しでもかっこよく描こうという管理人の贔屓ではなく(それもないことはないけど)、『盛衰記』準拠ということで。
(^^;)

平知度の最期

平知度(たいらのとものり)は、清盛の六男。

正確な年齢はわかりませんが、重衡(清盛五男)より歳下とすれば、おそらく二十代前半~半ばくらいだったのではないかと思われます。

知度は清盛の子とはいっても、宗盛たちとは母親が違うため格下で、たびたび過酷な遠征に派遣されていました。(前回参照)

しかも、前々回紹介した墨俣川の戦いの『吉記』の記述からもわかるように、知度は配下も少なく、大将軍自ら刀をふるって敵と対峙しなければならないような立場でした。
各家に専属する大武士団を率いている維盛通盛ともまた違うのです。

『源平盛衰記』は、自ら敵の前に飛び出していった知度のことを、勇猛果敢な武者として好意的に描いています。
参河守知度ハ、赤地錦ノ直垂二紫スソゴノ冑二黒鹿毛ナル馬二乗テ、西ノ山ノ麓ヲ北ニ向テ、五十余騎ヲ相具シテ、声ヲアゲ鞭ヲ打テ敵ノ中へ懸入ケレバ、(中略)皃優美也ケル上、冑ノ毛・直垂ノ色、日ノ光ニ映ジテ耀許二見エケレバ

【訳】
三河守知度は、赤地錦の直垂に紫裾濃の鎧を着けて、黒鹿毛の馬に乗って、西の山の麓を北に向かって、五十余騎を引き連れて声を挙げ、鞭を打って敵の中に勢いよく馳せ入ると、(中略)容貌が優美であるうえに、鎧の毛・直垂の色が日の光に映えて輝くほどに見えた

(『源平盛衰記』巻二十九 砺波山合戦の事)

かなりかっこよく描かれていますね。

『盛衰記』ではこの後、知度は、太刀を抜いて敵を二人倒した後で、敵に囲まれ逃れがたいのを知り、鎧の引き合わせを切り捨てて自害した、と書かれています。

強くて勇ましいんですが、前述のように、知度の最期の描かれ方も諸本によって随分異なります。
長門本『平家物語』では、知度は追手に配属されており、諸兵同様谷に落ちて亡くなっています。(…え?)

平知度は、平家一門では初めての戦没者となりました。

これまでにも苦戦した戦いは何度かありましたが、ついに平家一門から戦没者が出てしまったことには、いよいよ来たな、という感じがしますね。


加賀に留まる追討使

追討使は多くの犠牲を出しながらも、生き延びた者は、なんとか加賀まで退却しました。

とはいえ、そのまま都に逃げ帰ったわけではありません
(そういうイメージがありますが…)

義仲軍を迎え討つ覚悟で、加賀に留まります。

加賀を明け渡してしまえば、近江、そしてついには都が義仲の脅威にさらされてしまう…。
加賀・篠原の地で、決死の迎撃戦が始まるのです。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

次回、「篠原の戦いと山門連署」【寿永二年 維盛二十五歳】

追い詰められる平家。宗盛の次の一手とは?

次回更新は、六月下旬の予定です。


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※参考文献/『源平盛衰記』中世の文学、三弥井書店/『玉葉』国書刊行会/『山槐記』『吉記』増補史料大成、臨川書店/『平家物語』新日本古典文学大系、岩波書店/『平家物語』新編日本古典文学全集、小学館/『平家物語図典』小学館/『平家物語大事典』東京書籍/冨倉徳次郎氏『平家物語全注釈』角川書店/杉本圭三郎氏『平家物語全訳注』講談社/川合康氏『源平の内乱と公武政権』吉川弘文館/高橋昌明氏『平清盛 福原の夢』講談社 /元木泰雄氏『治承・寿永の内乱と平氏』吉川弘文館/ 永井晋氏『平氏が語る源平争乱』吉川弘文館/ →発行年等、参考文献の詳細はこちら

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