武器は作法と己の美貌!【平維盛まんが 1】 イケメンは史実?『玉葉』

平維盛

平家の嫡孫として『平家物語』でも描写の多い美貌の公達・平維盛。恵まれた出自ではなかった彼が、貴族社会で認められていく様子を漫画でどうぞ。

<『玉葉』承安二年二月十二日条より> 
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※漫画はえこぶんこが脚色しています。  

◆解説目次◆ ・登場人物
・維盛、中宮権亮に(14歳)
・維盛の処世術-武器は己の美貌! 

登場人物

平維盛 たいらのこれもり
平清盛の長男[重盛]の長男。中宮権亮。(近衛少将兼任)

平重衡 たいらのしげひら
平清盛の五男。徳子の同母弟。中宮亮。(左馬頭兼任)

維盛、中宮権亮に(14歳)

承安二年(1172)、平清盛の娘・徳子が高倉天皇の中宮に立った時、中宮周辺の事務を司る中宮職の人事が決まりました。

慈円が「皇子ヲ生セマイラセテ、イヨイヨ帝ノ外祖ニテ世ヲ皆思フサマニトリテント思ヒケルニヤ」(『愚管抄』)と考えたように、徳子は平家の希望を一身に背負って入内したわけですから、中宮の周りで決して粗相があってはいけません。

その点で、承安二年の中宮職の人事は、完璧とも言えるものでした。

建礼門院、平徳子と、イケメン平維盛平重衡ベテラン平時忠藤原隆季

まず長官である中宮大夫には、藤原隆季(ふじわらのたかすえ)を。
彼の家系は、善勝寺流と呼ばれる院の近臣で、清盛の祖父正盛以来、平家とは持ちつ持たれつの長い付き合い。また、平家とは姻戚関係でも結ばれています。

中宮権大夫には、平時忠(たいらのときただ)
清盛の正妻・時子の弟であり、後白河院の寵妃・建春門院滋子の兄。徳子にとっては母方の叔父にあたります。
時忠は平氏ですが、清盛の伊勢平氏とは別の系統で、堂上平氏と呼ばれる昔から京に根付いた文官の家系です。弁官を長年務めた経験から、宮中の事務にも詳しい。

この二人は、平家とも縁が深い人物である上に、宮中のしきたりなどにも通じています。


次官である中宮亮には平重衡(たいらのしげひら)
清盛の五男で、徳子の同母弟。

中宮権亮には、平維盛(たいらのこれもり)
清盛の長男[重盛]の長男で、徳子には甥にあたります。

この二人は徳子とも歳が近く、彼らが側に伺候していることは、徳子には心強かったはず。
また、見目がよく、気遣いもできる重衡維盛は、後宮という女性が多い職場でもウケがいいこと間違いなし。

対外的にも徳子にとっても万全の体制、絶妙な人事ですね!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

当時16歳14歳重衡維盛
二人は平家若手のホープであり、今後、東宮亮(東宮権亮)蔵人頭・・・と類似した経歴を辿っていくことになります。

軍事的にも、平家主流の武士団を率いる重衡と、小松家の武士団を率いる維盛、というように、平家の両輪として戦場に赴いていくことになるのですが、それはまた後の話・・・。


平家系図。平維盛平重衡平徳子高倉天皇

維盛は嫡男ではなかった?

平維盛は、平清盛の長男[重盛]の長男。つまり、系図の上では嫡流にあたり、『平家物語』でも、重盛の嫡男として描かれています。

ですが、維盛の母親は身分が低かったため、実際には、はじめから嫡男扱いされていたわけではありません

維盛には弟が複数いますが、母親が違います。
当時は母親の身分(=母方の実家の実力)が、出世に大いに影響しました。

その証拠に、仁安二年(1167)維盛が九歳で従五位下に叙されるよりも一年早く、すぐ下の異母弟・資盛は六歳で従五位下に叙されています。
さらにいうと、その下の弟・清経の方がはるかに恵まれており、この時既に五歳で正五位下です。

実は清経の母・経子(藤原家成女)こそが重盛の正妻であり、重盛の嫡男とされていたのは維盛ではなく、清経だったようです。


『山槐記』には、三男・清経が、長男・維盛よりも先に、禁色を許されていた(※)、という記事があります。
※位階以上の色を着ることを勅許により許されること
左少将清経朝臣〈母故家成卿娘、当腹〉被聴禁色、(中略)春宮権亮維盛朝臣〈但位次清経朝臣下〉未被聴禁色者也、

左少将清経朝臣(母は故家成卿の娘で、正妻腹である)は、禁色を許された。
春宮権亮維盛朝臣(但し位次は清経朝臣が下)は、いまだ禁色を許されていない。
『山槐記』治承三年六月四日条

平家平氏系図。小松家。平重盛平維盛平資盛平清経


維盛の処世術 -武器は己の美貌!

二人の弟に比べて、出自の面では不利な維盛でしたが、彼は余人が決して真似できない卓抜した武器を持っていました。

それは・・・

類まれなる美貌!

上記の漫画は、『玉葉』承安二年2月12日条を元にしているのですが、献杯を務めた人物は他にもいるのに、なぜか維盛の箇所にだけ「作法優美人々感歎」とわざわざ一言添えてあります。
権亮維盛雖年少十四云々、作法優美、人々感歎
(中宮権亮・維盛はまだ十四歳であっても、作法が優美で、人々は感歎した。)
(『玉葉』承安2年2月12日条)

『玉葉』の筆者・九条兼実は、別の項でも
維盛容顔美麗、尤足歎美(安元2年1月23日条)
少将維盛、重盛卿子、衆人之中、容顔第一(承安5年5月27日条)
と書き留めているほど。

維盛の美貌は、よっぽど際立っていたのでしょう。


また、中宮徳子に仕えた女房・右京大夫も、維盛の容姿について、
絵物語にいひたてたるやうにうつくしく見えし」
「際ことにありがたかりし容貌用意、まことに昔今見る中に、例もなかりしぞかし
(『建礼門院右京大夫集』6・7・215・216歌詞書)
と絶賛しています。


上記はいずれも、維盛と同時代に生き、維盛の姿をナマで見たことがある人物の証言ですから、
維盛の美貌はガチの史実といっていいでしょう。

もちろん、後世の創作物『平家物語』等でも、維盛は絶世の美男として描かれています)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ところで、維盛はただ美しいだけではありません。
笛にも優れ、歌も歌えるし、舞もできる。(『玉葉』)

美しく、礼儀作法・歌舞音曲にソツのない維盛は、新興勢力の平家にとって、アイコンとして貴族社会に送り出せる恰好の人材だったようです。

そんな彼に廻ってきた一世一代の晴れ舞台…それは、
後白河法皇の五十の御賀にて披露される「青海波舞」でした。

次回は『平家物語』より、維盛の青海波舞(安元二年、維盛18歳)です。


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※参考文献『玉葉』国書刊行会/『建礼門院右京大夫集・とはずがたり』新編日本古典文学全集、小学館/『愚管抄』日本古典文学大系、岩波書店/『平家物語』新日本古典文学大系、岩波書店/『平家物語』新編日本古典文学全集、小学館/『平家物語大事典』東京書籍/『平家物語図典』小学館/冨倉徳次郎氏『平家物語全注釈』角川書店/杉本圭三郎氏『平家物語全訳注』講談社/高橋昌明氏『平家の群像』『都鄙大乱』岩波書店/川合康氏『源平の内乱と公武政権』吉川弘文館/ →その他参考文献、発行年等の詳細はこちら
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