平家一のイケメン、唯一の弱点?!【平維盛まんが 3】 『建礼門院右京大夫集』

まるで光源氏…そんな完璧貴公子・平維盛にも、意外な弱点がありました。

<『建礼門院右京大夫集』95~98・187~192・215歌詞書より> 
平経正平維盛かっこいい平家物語漫画
建礼門院右京大夫集平家物語漫画かっこいい平維盛
平家物語建礼門院右京大夫集あらすじマンガ平維盛かっこいい
平家物語と建礼門院右京大夫集の平維盛、かっこいいイケメン
平家物語建礼門院右京大夫集あらすじマンガ平維盛イケメン
平家物語と建礼門院右京大夫集の平維盛、かっこいいイケメン
※漫画はえこぶんこが脚色しています。  

◆解説目次◆ ・登場人物
・建礼門院右京大夫集
・維盛・和歌苦手エピソード その1
・維盛・和歌苦手エピソード その2 

登場人物

平維盛 たいらのこれもり
平清盛の長男[重盛]の長男。中宮権亮。(近衛少将兼任)

右京大夫 うきょうのだいぶ
中宮・徳子に仕えた女房。藤原伊行の娘。

藤原隆房 ふじわらのたかふさ
藤原隆季の長男。平清盛の娘婿。

建礼門院右京大夫集

右京大夫は、中宮・徳子に仕えた女房です。

父の藤原伊行は、三蹟の一人・藤原行成の六代目の子孫で、現存最古の源氏物語の注釈書『源氏物語釈』を著した文学者。
母は箏の名手・夕霧
父母の才能を受け継いだ右京大夫は、宮廷女房として活躍しました。

右京大夫が宮仕えをしていた時期(1173~1178年)は、ちょうど、平家の栄華の絶頂期にあたります。
彼女の歌集『建礼門院右京大夫集』には、中宮の周りで華やぐ、平家の公達との交流が活き活きと描かれています。


さて、そんな『建礼門院右京大夫集』に描かれる維盛の姿は、『平家物語』の美青年キャラとはちょっと違う、意外な一面。

類まれなる美貌の持ち主で、作法も優美、舞も笛も朗詠も難なくこなす、完璧貴公子。
そんな彼が、実は・・・

和歌が苦手だった。

なにその可愛いエピソード!
ちょっと管理人の維盛愛が画面からダダ洩れしていますが、原作の維盛もこんな感じなんですよ。

以下、原文。
権亮は、「歌もえ詠まぬ者はいかに」といはれしを、なほ責められて

【現代語訳】
権亮(維盛)は、「私のように歌も詠めない者はどうしよう」と言われましたが、なおも責めたてられて…

(95~98歌詞書より)

(維盛の言葉)
「あいなのさかしらや。さるはかやうのことも、つきなき身には、言葉もなきを」

【現代語訳】
「よけいなおせっかいですね。とはいっても、このような歌を詠むことも相応しくない私には、何て返事をしたらいいのか、わからないのですが…」

(187~192歌詞書より)

ね?かわいいでしょ?(何様)

原作中でも仄めかされていますが、右京大夫も維盛には好意を持っていたようで、その筆致には、微笑ましいような視線を感じます。
(萌えポイントをよくわかってらっしゃる右京大夫先生)

勿論、右京大夫には愛する資盛がいますから、維盛への好意は恋愛的な意味ではなく、憧れ的な意味ですけど。(6・7歌詞書)
平家物語建礼門院右京大夫集イラスト平維盛平経正

維盛・和歌苦手エピソード その1

維盛の和歌苦手エピソード。一つ目は、清盛の私邸・西八条第での宴にて。

ここに登場する維盛以外のメンバー(藤原隆房平経正右京大夫)は全員、私家集を持ち、勅撰和歌集にも入集しているほどの和歌ウマです。

彼らの前で苦手な和歌を詠まされるなんて、維盛にしたら、たまったもんじゃないですね。

管理人には、和歌の巧拙を見極める目がないので、そんなに卑下するほど維盛が和歌下手なのか、わかんないんですけどね…。
(でも、かわいい)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

今回の話で、即興の和歌詠み大会を言い出したのは、藤原隆房
前々回登場した藤原隆季の長男で、清盛の娘婿です。

隆房は、後白河法皇五十の御賀の詳細を記した『安元御賀記』の筆者としても有名です。

平家と親しい立場にいた人物ですが、後白河院にも仕えていたので、平家滅亡後も政界に留まり続けました。
とはいえ、平家への義理は持ち続けた人だったようで、没落後の建礼門院を支援したとも言われています。

これは余談ですが…
鎌倉時代成立の短編集『平家公達草紙』にも、隆房は主要人物として登場するのですが、作中で隆房は維盛に対し、なんだか友情を一線越えた感情を抱いていたります。(?!)

もしかすると、右京大夫集に描かれる仲良さそうな関係から、そういう連想が生まれたのかもしれませんね。

和歌苦手エピソード その2

維盛の和歌苦手エピソード・その2は、維盛の恋愛問題。

他人の恋愛事情に首を突っ込んだ上、維盛の苦手な和歌で責めちゃうって、なかなか、右京大夫先生もいい仕事しています。
維盛と右京大夫は、こんな軽口も言い合える、気の置けない間柄だったんですね。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

そして、何故か維盛に口説かれる右京大夫。
「同じことと思へ」と、折々言はれしを、「さこそ」といらへしかば、「されど、さやはある」と言われしことなど

【現代語訳】
(維盛が)「私のことを資盛と同じように思いなさい」と時々言われたので、「そのようにお思い申し上げております」と答えたところ、「だけど、本当にそうかな」と言われたことなど
(215~216歌詞書より)

……維盛、どうした?!

実は右京大夫は、重衡からも同じような理屈で口説かれています。
(俺は資盛と同じ平家なんだからって)

こうしたやりとりは、貴族社会では戯れの挨拶みたいなもので、維盛も重衡も本気ではないんでしょうけど、
平家の二大イケメンに口説かれる右京大夫、最強すぎますね。

平家物語建礼門院右京大夫集のかっこいい平維盛と平重衡と平資盛イケメン

ただ……
『建礼門院右京大夫集』で、この胸キュンエピソードが語られるのは、維盛の訃報を聞いたときの、右京大夫の回想なんですよね…。

せつない。


右京大夫と平家の公達との興味深いエピソードは、えこぶんこ1に多数掲載していますので、宜しければご覧ください。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

まるで王朝絵巻のように明るく雅な日々。
ところが、平穏な日常は長くは続きません。
維盛の運命は、この後、急展開を迎えることになります。

次回、『平家物語』より、父・重盛の病。(治承三年、維盛21歳)
小松家、ピンチ…!




▼シェア
 





※参考文献『玉葉』国書刊行会/『建礼門院右京大夫集・とはずがたり』新編古典文学全集、小学館/『平家物語』新日本古典文学大系、岩波書店/『平家物語』新編日本古典文学全集、小学館/ /角田文衛氏『平家後抄』朝日新聞社 /『平家公達草紙』笠間書院/『平家物語図典』小学館/『平家物語大事典』東京書籍/冨倉徳次郎氏『平家物語全注釈』角川書店/杉本圭三郎氏『平家物語全訳注』講談社/高橋昌明氏『平家の群像』岩波書店/川合康氏『源平の内乱と公武政権』吉川弘文館/ →発行年等、参考文献の詳細はこちら


にほんブログ村 本ブログ 古典文学へ
【おすすめ記事】

維盛中宮権亮 維盛右京大夫集 富士川の戦い 倶利伽羅峠 平家山門連署 京都防衛戦線 資盛の都落ち 維盛の都落ち
【記事一覧】他のお話はこちらからどうぞ!

【平維盛の生涯】
■1【一四歳】武器は作法と己の美貌!|玉葉
■2【一八歳】美しすぎる青海波舞!|平家物語
■3【一九歳】唯一の弱点?|建礼門院右京大夫集
■4【二一歳】無文の太刀と重盛の病|平家物語
■5【二一歳】熊野詣と重盛の他界|平家物語
■6【二二歳】以仁王の挙兵|玉葉
■7【二二歳】富士川の戦い-前|山槐記・玉葉
■8【二二歳】富士川の戦い-中|山槐記・玉葉
■9【二二歳】富士川の戦い-後|山槐記・玉葉
■10【二二歳】近江の戦い|玉葉
■11【二三歳】墨俣川の戦い|玉葉・吉記
■12【二五歳】倶利伽羅峠の戦い-前|平家物語
■13【二五歳】倶利伽羅峠の戦い-後|源平盛衰記
■14【二五歳】篠原の戦いと山門連署|平家物語
■15【二五歳】最後の京都防衛戦線|吉記
■16【二五歳】都落ち[資盛と後白河院]|愚管抄
■17【二五歳】都落ち[忠清と貞能]|平家物語
■18【二五歳】都落ち[維盛と新大納言]|平家物語
■19【二五歳】福原落ち-前編|平家物語
■20【二五歳】福原落ち-後編|平家物語
■21【二五歳】大宰府、月夜の歌会|平家物語
■22【二五歳】大宰府落ち-前編|平家物語
■23【二五歳】大宰府落ち-後編|平家物語
■24【二五歳】貞能の離脱|吾妻鏡
■25【二五歳】水島の戦い|源平盛衰記
■26【二六歳】木曽義仲との和平交渉|玉葉
■27【二六歳】福原奪還と維盛の病|平家物語
■28【二六歳】三草山の戦い-前編|平家物語
■29【二六歳】三草山の戦い-後編|平家物語
■30【二六歳】一の谷の戦い(1)|平家物語



このブログの人気の投稿

水島の戦い!【平維盛まんが 25】『平家物語』『源平盛衰記』

福原奪還と維盛の病【平維盛まんが27】| 『平家物語』『源平盛衰記』

一の谷の戦い(1)生田の森の攻防!【平維盛まんが30】|『平家物語』

木曽義仲との和平交渉!【平維盛まんが26】|『玉葉』『吉記』 『平家物語』

三草山の戦い!(前編)【平維盛まんが28】|『平家物語』『吾妻鏡』

三草山の戦い!(後編)【平維盛まんが29】|『平家物語』『吾妻鏡』

平貞能の離脱と、資盛の手紙【平維盛まんが 24】『玉葉』『吾妻鏡』『平家物語』

平家都落ち! 後編(維盛と新大納言)【平維盛まんが18】 『平家物語』

平家都落ち! 前編(資盛と後白河院)【平維盛まんが 16】『愚管抄』